大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第一小法廷 昭和22年(れ)277号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

被告人李判秀辯護人高橋武夫上告趣意第二點について。

公判廷において證據調をした書類を公判調書に記載するには、如何なる書類につき證據調がなされたかを明確にすれば事足るのであって、必ずしもその書類を一々個別具體的に掲記する必要はない。原審公判調書を見ると、その證據調の記載部分に「裁判長は證據調をなす旨を告げ本件記録中の公判調書聽取書盗難屆書抄本及其他の各書類の要旨を告げ其の都度意見弁解を求め……」とあって證據調のなされた書類の一々につき具體的に明確に示されていないことは、論旨の指摘する通りであるが、右の記載によっても、本件記録中に損する聽取書の全部について證據調手續が適法に履踐されたことが窺われ得るのである。從って本件記録に綴られてある所論の千尚英に對する司法警察官の聽取書についても亦適法に證據調がなされたことを認め得るのであるから、原審が該聽取書を證據として事実認定の用に供したからといって、原判決に所論のような違法があると言うことはできない。論旨は理由なきものである。

同第三點について。

刑訴應急措置法第一二條は、憲法第三七條第二項の法意を受けて、證人その他の者の供述を録取した書類又はこれに代わるべき書類については、被告人が公判期日においてその供述者又は作成者を訊問することを請求し得る權利のあることを豫想して、右の請求のあったときは、裁判所はその訊問の機會を與えなければかゝる書類を證據とすることができない旨を規定したのではあるが、必ずしも裁判所に對して、被告人に右證人訊問の請求權あることを告知し又はその權利行使を促すべき義務を負擔せしめたものでないことも亦法文上明かである。尤も右應急措置法の規定は、憲法の実施に即應して新に制定され、その施行後まだ間もないことで、往々前示のような權利あることを知らない被告人もあり得るのであるから、殊に辯護人の附されていない場合にあっては、裁判所は進んで被告人に對して、これを告知するのが懇切な訴訟指揮として推奨せらるべきことであろうけれど、かゝる措置に出でなかったというてこれを目して違法なりということはできない。

さて本件記録をみると原審が右の措置をとらなかったことは論旨所論の通りであるが、この一事を捉えて原判決を違法なりと斷定し得ないことは前説示の通りで、本論旨も亦理由なきものである。(その他の判決理由は省略する。)

よって刑事訴訟法第四四六條に從い主文の通り判決する。

この判決は、裁判官全員の一致した意見である。

(裁判長裁判官 岩松三郎 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 真野毅 裁判官 齋藤悠輔)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例